夏も盛りの頃でした。
あの頃のひなちゃんは、家の前の電線にも時々来ていましたが、日中はあまり姿を見せませんでした。
ある真夏のお昼下がりのことです。
私はスーパーマーケットへ行こうとして、いつもの桜並木の道を歩いていました。
そこは、大きな桜の木々が道路の両側から枝を広げ、まるでアーチのようになっている場所です。
春にはたくさんの人が集まり、桜の名所として賑わいます。
でも、夏になるとまた違う美しさがありました。
濃い緑の葉がやさしく揺れ、木漏れ日が道路に落ち、そよ風が通り抜けていきます。
真夏でも、その場所だけは少し涼しく感じるような、そんな道でした。
その桜並木の上に張られた電線で、
ひなちゃんが、一生懸命鳴いていたのです。
体を上下に揺らしながら、
「ウギャー!」
「ウギャー!」
と、声を振り絞るようにして鳴いていました。
その少し離れた電線では、ギャーさんとママが、静かにひなちゃんを見守っています。

2021年8月、朝のひなママ
私は思わず、心の中で笑ってしまいました。
「さすが、ひなちゃん。」
「こんな素敵な場所で鳴く練習をするなんて。」
家の前の電線ではなく、
桜並木の風が吹き抜ける場所を選ぶなんて、
なんだか“王子様”みたいだなぁと思ったのです。
風に揺れる桜の葉。
木漏れ日。
真夏のやわらかな光。
そして、その中で一生懸命声を出しているひなちゃん。
あの夏のお昼下がりの景色は、
今思い出しても、とても気持ちの良い時間でした。