ひなちゃんが親離れして、少し経った頃のお話です。
あの頃、私はまだ、どこかぽっかりした気持ちで毎日を過ごしていました。
でもギャーさんとママは、相変わらず家の近くへ来てくれていました。
ある日、
「そろそろギャーさんが来る頃かな。」
と思って、ガレージのところにクッキーを少し置いておきました。
すると、ギャーさんがやって来ました。
うれしそうにクッキーを見つけると、ぱくぱくと全部食べてしまったのです。
そこへ、ママが飛んできました。
でも、クッキーはもうありません。
すると突然、ママがギャーさんへ詰め寄ったのです。
そして私は、その時初めて、本格的な“カラス語”を聞きました。
「ヴァルキャロギャラバラ、バラバラボロボロ!」
もう、本当にそんな感じだったのです。
ママのハリのある大きな声が、止まりません。
ギャーさんに向かって、一生懸命何かを訴えているのです。
ギャーさんは、いつものように少し頭を下げながら、その言葉をじっと聞いていました。
私はそれを見ながら、
「ああ、ギャーさん、大変なことになったなぁ。」
と思いました。
実はその頃、ひなママは少しギャーさんに不満を持っていた時期だったのです。
猛暑だった夏が終わり、九月に入ると急に秋風が吹き始めました。
まるで十一月のような寒さの日もありました。
そんな中、ギャーさんは少し早めに、ひなちゃんを親離れさせたようでした。
でもママにとっては、
「まだ早すぎる。」
そんな気持ちがあったのだと思います。
私はなんとなく、その空気を感じていました。
そんな時期だったからこそ、
「自分だけ全部食べてしまった」
という今回の出来事に、ママの気持ちが一気にあふれたのかもしれません。
私は慌てて、同じ場所へクッキーを追加しました。
するとギャーさん、それを見つけると、今度はちゃんとママを呼びに行ったのです。
しばらくして、ママを連れて戻って来ました。
ママはクッキーを見ると、ほっとしたように口にくわえました。
そしてギャーさんと一緒に、どこかへ飛んで行きました。
私はその後ろ姿を見ながら、なんだか可笑しくて、でも少し温かい気持ちになりました。
あの時のママのカラス語。
今思い出しても、本当にすごい迫力でした。
でもその中には、
家族を思う気持ちや、
「ちゃんとしてよ。」
というママの思いが、たくさん詰まっていたような気がします。
