2019年の春、3月頃のことです。
朝から、どこからともなく大きな声が聞こえてきました。
「ギャー」という声に混じって、
しばらくすると「ゲロゲロゲロ…」という音が続きます。
そしてまた静かになり、
しばらくすると、同じような声が繰り返される。
最初は何の音か分かりませんでしたが、
やがて気づきました。
これはヒナが「お腹すいたよ」と親に訴えている声で、
親鳥がご飯を運び、口移しで与えているときの音だったのです。
大きな口を開けて、羽をバタバタさせながら、
一生懸命にご飯をもらっている様子が、目に浮かびました。
こんなににぎやかな声が毎日響いていて、
ご近所の方はどう感じているのだろうと、少し気になっていました。
けれど、誰かが困っている様子はありませんでした。
ある日、公園を歩いていると、
小さな男の子が「お父さん、ここにいたんだね」と言いました。
どうやら、あの鳴き声の場所に気づいたようでした。
みんな分かっていたのです。
ここで新しい命が生まれ、育っているということを。
その言葉を聞いて、私はほっとしました。
それからしばらく時が過ぎ、季節は春から初夏へと移っていきました。
6月に入った頃、ふと電線を見ると——
家の前の電線に、
いつものように ハシボソガラス の
ギャーさんと、ひなちゃんのママが並んでいました。
仲良く寄り添うその姿は、いつもと同じでしたが——
その日は、三羽いました。
思わず目を凝らしました。
大きさはそれほど変わらないのですが、
飛び方がどこか頼りなく、
ふわっと電線にとまり、恐る恐る飛び立ちます。
屋根の上に降りると、今度は好奇心いっぱいに動き回る。
その様子で、すぐに分かりました。
「この子が、ひなちゃんだ」
それからの日々は、とてもにぎやかでした。
ひなちゃんは一日中元気で、
どこにいるのか分からないほど、
あちこちで声をあげていました。
親鳥は何度もご飯を運び、
そのたびに大きな声で喜びます。
一人っ子だったこともあり、
愛情をたっぷり受けて育っていました。
特に、お母さんのやさしさは深く、
見ているこちらまで温かい気持ちになりました。
そして夕方。
私はこの時間がとても好きです。
鳥たちは日が沈む前になると、
屋根や電線、木の上に静かにとまり、
まるで一日を振り返るかのように過ごします。
「今日もありがとう」
そんな声が聞こえてくるような、穏やかな時間です。
私自身も、夕方になると同じように一日を振り返ります。
それはきっと、
こうした自然の姿から教わったことなのだと思います。
ある夕方、
ひなちゃんの声がしたのでベランダから外を見ると、
お隣の屋根の上に、ママと一緒にいる姿がありました。
あれほど元気に鳴いていたひなちゃんが、
そのときは静かに寄り添っていました。
まるで、夕方の過ごし方を
ママから教わっているようでした。
そのときの写真を撮りましたので、
ここに一緒に残しておきます。
あの初夏の日々は、
にぎやかで、やさしくて、
やわらかな光に包まれた、あたたかい時間でした。
これからも、少しずつ思い出を綴っていけたらと思います。

夕方、ママと一緒に静かに過ごしていたひなちゃん(右側:ひなちゃん)