ひなちゃんが生まれて、パパとママと三羽で楽しく過ごすようになった頃のお話です。
季節はもう、かなり暑い時期に差しかかっていました。
ある日、家の前の電線に、見慣れない小さなカラスがやって来ました。
よく見ると、ハシブトガラスの幼鳥さんです。
ひなちゃんと同じくらいの大きさでした。
でも声はまるで違います。
「ガー! ガー! ガー!」
ハシブトガラス特有の、大きな力強い声を一生懸命出していました。
その時、ひなちゃんは、いつものようにパパとママと三羽で、のんびり電線の上にいました。
するとその幼鳥さん、突然ひなちゃんのそばへ飛んで来たのです。
しかも、とても積極的でした。
ちっちゃくて可愛いのに、勢いだけはものすごいのです。
「遊ぼう! 遊ぼう!」
そんなふうに言っているようでした。

ひなちゃんは、びっくりして後ずさりしました。
電線の上を、そろそろとパパとママの方へ逃げていきます。
でもその子は、どんどん近づいて来ます。
私はその様子を見ながら、
「あらあら、ひなちゃん、モテるのね。」
と思わず笑ってしまいました。
だってひなちゃんは、本当に愛されて育っていました。
パパとママがいつもそばにいて、三羽で仲良く過ごしていて、毎日一生懸命いろんなことを覚えていたのです。
そんな姿を見ていたら、
「私も混ぜて!」
と思ったのかもしれません。
ギャーさんとママは、その子を追い払ったりはしませんでした。
むしろ、小さな声で話しかけているようでした。
「早くお家に帰りなさい。」
「ママとパパが心配しているよ。」
そんなふうに見えました。
でも、その子はまったく気にしません。
ひなちゃんの方へ、どんどん近づいて来ます。
そのたびに、ひなちゃんは逃げます。
パパとママは、
「どうしようかなぁ。」
という感じで、少し困ったように、それでもどこか楽しそうに見守っていました。
特にママは、自分の子どもを見守るような、ほわっとやさしい空気でした。
そんなことが、その日だけではなく、数日続きました。
でも、いつの間にか、その幼鳥さんは来なくなりました。
きっと、自分のお家へ戻っていったのでしょう。
今思い出しても、
あの小さなハシブトガラスさんは、
ただ、ひなちゃんと仲良くしたかっただけなのかもしれません。
そんな夏の日の、小さな出来事でした。