2018年の夏も終わりに近づいた頃でした。
あの頃のひなちゃんは、
もういつでもパパとママにぴったりくっついているわけではなく、
少しずつ自由に過ごす時間も増えてきた頃だったと思います。
ある日、ギャーさんが一羽で、家の前の電柱にやって来ました。
「あっ」
と思いました。
この時期に、一羽だけで来ることは、あまりなかったからです。
そして、あのしゃがれ声で
ギャーさんの「招集コール」が始まりました。
きっと、ママとひなちゃんを呼んでいるのです。
私は、すぐに二羽がそろって飛んで来るのだと思っていました。
ところが、少し経ってから聞こえてきたのは、
「ウギャー……ウギャー……」
という、とても小さな声でした。
しかも、その声は下の方から聞こえてきたのです。
私は思わず、
「あれ? 今の何?」
と思いました。
すると同時に、ギャーさんも、電柱の上から首をぐるっと回して、下を覗き込んだのです。
その姿が、あまりにも人間っぽくて、私は思わず笑ってしまいました。
まるで、
「え? 今の声なんだ?」
と言っているようだったのです。
しばらくして、
ひなちゃんが、ポンっと電線に飛び上がってきました。
その様子を見て、私はやっと分かりました。
さっきの小さな声は、ひなちゃんだったのです。
きっとひなちゃんは、
勇気を出して返事をしたのだと思います。
今までは、いつもママと一緒でした。
ママが美しい声で返事をし、
そのそばで、一緒になって鳴いていたのでしょう。
でもこの時は、
自分ひとりで返事をしなければならなかった。
「ここにいるよ」
「パパ、聞こえてるよ」
そんな気持ちで、
小さな声を一生懸命出していたのかもしれません。
その声は、まだ少し頼りなくて、
どこか恥ずかしそうで、
もじもじしているようにも聞こえました。
私はその様子が、とても可笑しくて、そして愛おしく感じました。
それからほどなくして、
ひなちゃんのママも、さっと飛んできて電線に止まりました。
家の前に、ギャーさん一家集合です。
しばらくすると、三羽はそろってどこかへ飛んでいきました。
でも私は、
あの時の小さな返事を、今でも時々思い出します。
あの小さな返事は、
ひなちゃんが初めて自分の声で、
家族に向かって応えた瞬間だったのかもしれません。
