今朝、2階のベランダから、日の出前の空を眺めました。
金星さんのお姿は、まだ見つけられませんでしたが、その方角には素晴らしい朝焼けが広がっていました。
空には月様。そして、明るくなってゆく空の中に、シリウスさんも見つけることができました。

下弦の月様、火星さん、木星さん、レグルスさん
金星さんのいらっしゃる方角にご挨拶をして、朝焼けの写真を撮り、ようやく自分の部屋へ。

金星さんのおられる方向の朝焼けです
レモネードティーを飲みながら、ほっとひと息ついていた時でした。
突然、24年前の思い出が、鮮やかによみがえってきたのです。
私は2002年9月末、50歳の時に、最初に勤めた銀行を退職しました。
9月に入ってから、人事部へ直接、今月末で退職させていただきたいとお願いした、急な退職でした。
当時は、数か月前に申し出て、引き継ぎの期間を設けるのが慣習でした。それでも私の申し出を受け入れてくださり、人事部の皆様は、月末までに後任の方の手配も整えてくださいました。
有給休暇は1か月ほど残っていましたが、使わずに9月末まで働きました。
自分の事情で突然退職することへの申し訳なさと、それを支えてくださった皆様への感謝。その両方が、胸いっぱいにありました。
ちょうどその秋、支店では年に一度の旅行会が予定されており、私の送別会も兼ねていただくことになりました。
会場は、都心の一流ホテルでした。
美しい日本庭園を歩いた先にある、趣のある個室。支店の皆様と一緒に宿泊するという、私には何ともぜいたくで、不思議なひとときでした。
まるでホテルの別館に、私たちの支店がそのまま移ってきたようでした。
最後のご挨拶では、急な退職をお詫びし、感謝をお伝えしました。
皆様は私を責めることなく、真剣に耳を傾けてくださいました。その温かさを、今も覚えています。
宴会が終わった後、支店長が声をかけてくださいました。
「これから、ちょっと行きませんか」
私と、直属の上司を誘ってくださり、3人で夜の街へ出かけました。
その支店長は、私が退職する1か月ほど前に着任されたばかりの方でした。それでも、本当によくしてくださいました。
後に伺って、驚いたことがあります。
入行した頃、国際部でご一緒した、一つ年上の先輩。その方と、こちらの支店長は、ご友人だったのです。
明るく社交的で、難しい試験にも次々と合格される先輩でした。私も勉強方法を教えていただいたことがありました。
その頃、私自身も、難しいといわれていた「外国為替2級」の検定試験に合格することができ、国際部の皆様が喜んでくださったことは、うれしい思い出です。
その懐かしい先輩が、支店長に、私を十分にもてなしてあげてほしいと頼んでくださっていたそうです。
長い年月を経ても、そんなふうに心にかけてくださっていたことに、胸がいっぱいになりました。
退職の記念にいただいたシルクのスカーフにも、支店長のお心遣いがありました。
当時勤めていた横浜の支店には、シルクを扱う、歴史ある会社とのお取引がありました。
支店長が、良いものを贈りたいと、その会社の方に選んでいただいたのだと、同僚が教えてくださいました。
その上質なスカーフは、24年たった今も、新品のような美しさを保ち、折々に活躍してくれています。
身につけるたび、皆様のお心遣いまで、そっとまとわせていただくような気がします。
あの夜は、支店長行きつけのバーへ連れていっていただきました。
カウンターに3人で座り、夜更けまで、しみじみとお話をしました。
お店を出たのは、午前2時か3時頃だったでしょうか。
赤坂の街には、まだ大勢の人が歩き、タクシーが次々と行き交っていました。真夜中とは思えないにぎわいに、私は目を丸くしました。
「お蕎麦でも食べていこう」
支店長に案内された、立派なお蕎麦屋さんも、ほとんど満席でした。
こんな時間に、お蕎麦をいただくなんて。
驚きながらいただいたお蕎麦が、本当においしかったことを覚えています。
それまで知らなかった、大人の夜の世界を、少し見せていただいたような気持ちでした。
帰りはタクシーで、皆様の待つホテルへ。
翌朝、昨夜はどこにいらしたのですかと尋ねられ、私は、丁寧におもてなしをしていただいたのだとお答えしました。
申し訳なさを抱えて迎えた退職でしたが、最後に残ったのは、皆様への深い感謝でした。
そして今朝、送別会の思い出とともによみがえったのが、あの夜をご一緒した、直属の上司の仕事ぶりでした。
若い頃、国際部で一緒に仕事をした、私より数年後輩の方です。
フランスに2年間留学し、現地の銀行でも研修を受けて帰国された、明るく、仕事のできる方でした。退職する頃には、私の係長になっていらっしゃいました。
係員に任せるところは任せ、信頼してくださる方でした。
机の上には、私たちが出した承認待ちの書類が山のように積まれていました。本部からの依頼もあり、いつも多忙でした。
それでも、お客様からの苦情や問題が起きると、嫌な顔一つせず、時間をかけて対応されるのです。
ある日、一番忙しい午後3時頃に、大きな問題が起きました。
承認をお願いしなければならない書類は、まだ山のようにありました。
その時、係長は私たちに尋ねました。
「一番急ぐもの、時間制限のあるものはどれですか。出してください」
私たちは、積まれた書類の中から、締め切りの迫ったものや、その先の承認へ回さなければならないものを選び、お渡ししました。
係長はそれらにきちんと目を通して処理されると、
「これから少し席を外します。後はよろしくお願いします」
そうおっしゃって、対応のために外出されました。
夕方6時を過ぎても、お戻りにはなりませんでした。随分遅くまでかかったと、後で伺いました。
あれほど仕事があるのに、どうして落ち着いて動けるのだろう。
当時の私は、驚きながら、その姿を見ていました。
今やらなければならないこと。
後に回せること。
そして、自分が向き合うべきこと。
その方は、それを見極め、私たちを信頼して、目の前の大切なことに力を注いでいらしたのだと思います。
この数日、母の病状のことで、私はほとんど母にかかりきりでした。
自分が守るべきこと、どうしても必要なことを選びながら過ごす中で、昨日から心に浮かんでいた言葉があります。
「昨日できなかったことを、全部取り戻そうとはしない」
できなかったことを一度に取り戻そうとすると、今日という日まで、いっぱいになってしまいます。
今、目の前にある大切なことに、心を向ける。
今朝、朝焼けを眺め、ほっとした時に思い出した係長の姿は、そのことと、ぴったり重なりました。
24年前には、ただ驚いて見ていた仕事の姿勢が、今の私を支えるヒントになって戻ってきてくれたのです。
あの送別会も、夜更けのお蕎麦も、大切に使い続けているスカーフも。そして、忙しい中で大切なことを選び取っていた、上司の姿も。
皆、私の中に、温かく残っていました。

東南に咲くツワブキさん達
朝焼けが連れてきてくれた、懐かしい思い出。
こうして言葉に残せることを、うれしく思います。
お世話になった皆様へ。
そして、思い出に静かに出会わせてくれた、今朝の空へ。
心から、ありがとうございます。
I’m truly grateful.