春からもう初夏になろうとしている頃、今日は雨が降っていました。
ひぐらし椿の赤ちゃん木さんにも、自分で驚くほど新しい葉がたくさんつき始めています。
なんだか嬉しくなって、ぼーっとお空を眺めていました。
すると赤ちゃん木さんが、小さな声で独り言を言いました。
「そうなんだ。
あの雨が降るから、僕たちは大きくなれるんだよね。」
その時です。
ひょっこりと、小さな可愛いリスさんが現れました。
「久しぶり。
なんだかこの頃来なかったでしょ?」
そう声をかけると、リスさんは少し疲れた顔をしています。
「どうしたの?」
すると小さなリスさんは、ぽつりと言いました。
「あのね。
パパとママと、お兄さんが、お空の上に行っちゃったんだ。」
赤ちゃん木さんは、しばらく考えました。
そして静かに言いました。
「僕もね、そういうことあったよ。
でもね、大丈夫なんだよ。
お空に向かって叫んだらいいんだよ。
『絶対立派なリスになって、公園や緑地の中を駆け巡るんだ』って。
『パパ、ママ、お兄さん、見ててね』って、そう言えばいいんだよ。」
「……あ、そうなんだ。」
「そうだよ。
その声を聞くとね、お空にいるパパもママもお兄さんも、きっと喜んでくださるんだよ。
そして神様にお願いして、君のこと守ってくださるんだ。」
「気がつかなかった。
そういうことあるんだね。」
「そうだよ。
僕なんてね、『赤い椿さんみたいな素敵な椿さんを咲かせるんだ』って叫んだんだよ。
そしたらさぁ、こんなに葉っぱが増えてきたの。」
「ほんとだ。
この間より、ずっといっぱいついてるね。」
「うん。僕も驚いてるくらいなんだ。
ここはね、君の故郷だと思ったらいいよ。
だって君は、パパとママとお兄さんと一緒に、ずっとお花様を見ててくれたものね。
キジバトさんやカラスさんたちとも仲良くしてたじゃない。
みんなね、“最近見えないね”って言ってたんだよ。」
「うれしいなぁ……。
僕ね、もう家族がいないと思って、ひとりでとっても寂しかったの。」
そしてリスさんは、少し空を見上げながら言いました。
「でもね。
やっぱり一番安全なのは、緑地公園とか森の方だから。
たまには遊びに来るかもしれないけど……。」
「あぁ、当然だよ。
だけどね、心の中には、ここにも友達や仲間がいるってこと、忘れないでね。
そして、どうしても寂しくなっちゃった時は、ここにおいでよ。
ここにいる人は、変なことしないよ。
ここだったら大丈夫だよ。
でもね、“ここだったら”だよ。
間違わないでね。」
「うん。
ここか、緑地公園か、森の中だね。
そこで大きくなって、野山を駆け巡るんだ。
おいしいものもたくさんあるよね。」
「この家の前には、くるみの木もあるし、取りにおいでね。」
「当然だよ。
道路にいっぱい落ちてるものね。
だから拾いに来た時、ちょこっと寄るかもしれない。」
「うれしいなぁ。
その時また、僕の葉っぱの様子見てね。」
「わかった、わかった。
今日、元気もらった。うれしい。」
そう言うと、小さなリスさんは、緑地公園の方へ走って行ってしまいました。
赤ちゃん木さんは、心の中でそっと思いました。
「ひぐらし椿さんが守ってくださるよ。
リスちゃん、本当に力いっぱい生きてね。
僕も、力いっぱい生きるから。」
ふと気づくと、雨が止んでいました。
少しだけ、お空が明るくなっています。
まだこれから、今夜から明日にかけて雨が降るそうです。
ちょっとした“雨のお休み時間”に起きた、小さなお話でした。