カラスやお花、星の観察など、日々の小さな気づきを記録しています。

一期一会 ― ミッキー君が残してくれた小さなおくりもの 朝の光に抱かれて(後編)

その夜、家の中は、私が長年大切にしてきた「わが家」の姿ではなくなっていました。

夜遅く、小さな物音がしたことをきっかけに、業者の方が来られました。

玄関、リビング、台所、洗面所、母の部屋の前……。

一階のあちらこちらに粘着シートが敷かれ、忌避剤が置かれ、家中が慌ただしい空気に包まれていきました。

私は母のそばにいることになり、静かにソファーへ腰を下ろしました。

母は不思議そうに、
「どうしたの。」
と尋ねました。

私は、
「大丈夫だから。」
とだけ答えました。

やがて私はソファーへ横になり、

「今日はここで休みます。」

と静かに伝えました。

昨日は私の部屋で、スマートフォンから流れる水の音を聞きながら眠りました。

今夜は母のそばです。

場所は違っても、この家のどこかにミッキー君がいます。

「出てこないでね。朝になったら、きっと外へ出してあげるからね。」

そう心の中で語りかけながら、テレビでYouTubeの水の流れる音を流しました。

しばらく聞いていましたが、母が「音が大きいわね」と言いましたので、音を止めました。

それでも、水の音を聞いていたほんのひととき、私の心は少しだけ静かになりました。

そして私は、

「天之御中主神様、お助けくださいまして、ありがとうございます。」

その言葉を何度も心の中で唱えながら、眠りにつきました。

以前、夜に一匹の蛾が部屋へ入ってきたことがありました。

早く外へ出してあげようと思い、私はそっと触れて逃がそうとしました。

けれど、小さな蛾にとっては、その一瞬の力さえ大きな衝撃だったのでしょう。

翌朝、その蛾は、窓辺に置いてあった小さなベゴニアの挿し木の鉢の中で、静かに横たわっていました。

湿った土と、小さく咲く花に包まれるように眠る姿を見た時、

「ああ、この子は自分で、この場所を選んだのだ。」

そう思ったことを、今でも覚えています。

それ以来、夜は無理に追い出さず、朝、太陽の光とともに外へ出てもらうようになりました。

だから、この日も私は、

「朝になれば、きっと外へ出してあげられる。」

そう信じていました。

やがて朝になりました。

私は鳥さんたちのお世話を終え、母のお世話をし、一緒に温かい緑茶をいただきました。

静かな朝が戻ってきたように感じました。

そして、リビングの雨戸を開けようとした、その瞬間でした。

「シュッ。」

小さな影が動きました。

ミッキー君でした。

一晩、私のすぐそば、雨戸沿いに並ぶベゴニアの鉢のところで身を寄せていたのです。

「よかった。」

そう思った次の瞬間でした。

ほんの少し動いたミッキー君は、近くに置かれていた粘着シートに触れてしまいました。

私は思わず駆け寄りました。

急いで手袋を探し、手にはめました。

そして、粘着シートごとミッキー君をそっと持ち上げ、庭へ運びました。

家の中では落ち着いてできないと思ったからです。

庭へ出ると、私は近くの木の枝を探しました。

少しでも傷つけないように、枝を使って粘着シートから離そうとしました。

けれど、粘着剤は強く、小さな体はなかなか離れてくれません。

それでも何とか芝生の上へ移すことができました。

ところが、粘着剤の付いた面が下になってしまいました。

私は、

「これではだめ。」

と思い、小さな体をそっと起こしました。

少しでも楽な姿勢になれば。

少しでも助かるなら。

ただ、その一心でした。

ミッキー君は、小さな目を開け、お口を懸命に動かしています。

体中には、まるで蜘蛛の巣のように粘着剤が絡みつき、もがくたびに草が付いていきました。

その時でした。

「ヒュン。」

小さな声が聞こえました。

私は胸がいっぱいになりました。

どうしたら助けられるのだろう。

もし私が動物のお医者様だったなら。

そんな思いが胸をよぎりました。

けれど、その場で私にできることには限りがありました。

私は、朝日がやさしく差し込み、芝生が朝露に輝き、土がまだ朝の湿り気を残している場所へ、そっと移しました。

そこは、私が大切にしているサザンカさんのそば、以前、百合さんが咲いていた場所です。

私は、

「きっと大丈夫。」

そう願いながら、家の中へ戻りました。

しばらくして、私はもう一度庭へ出ました。

庭には、いつの間にか梅干しが干されていました。

朝日に照らされ、黄金色に輝いています。

芝生も、木々も、いつものように美しい朝でした。

その時、一羽のカラスさんが、低く空を横切っていきました。

私は静かに、ミッキー君を寝かせた場所へ向かいました。

けれど、そこにはもう姿はありませんでした。

ほんの少し前まで、あの子がいたとは思えないほど、その場所は静かで、美しい朝の庭に戻っていました。

私は、その景色を見つめながら、自然に思いました。

「天之御中主神様が迎えに来てくださったのですね。」

前の夜も、その前の夜も、

私は何度も、

「天之御中主神様、お助けくださいまして、ありがとうございます。」

そう祈り続けていました。

だからでしょうか。

私には、天之御中主神様が、

「ミッキー君、本当によく頑張りましたね。」

と、優しく抱いてくださったように感じました。

業者の方は、

「まだ親がいるかもしれませんね。」

と、おっしゃっていました。

もし、お父さんやお母さんが、あの子を探しているのだとしたら。

その時、私には、

「大丈夫ですよ。最後まで精いっぱい頑張ったことは、私からちゃんと伝えておきます。」

と、天之御中主神様が優しく語りかけてくださったように思えたのです。

私は今でも、そのように信じています。

ミッキー君との出会いは、本当に一期一会でした。

短い時間でしたが、私にたくさんのことを教えてくれました。

小さな命の尊さ。

自然の中で生きるということ。

そして、一つひとつの出会いが、かけがえのない贈りものであること。

ミッキー君、本当にありがとう。

天之御中主神様、お助けくださいまして、ありがとうございました。

すべてに感謝いたします。

I’m truly grateful.

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