5月30日、チョコちゃんと散歩に出かけました。
この公園は、何年も前からギャーさん一家と出会ってきた、大切な場所でもあります。

2020年9月25日の朝、公園で出会ったギャーさん一家です。左からオレンジ君、奥がひなママ手前がギャのさんです。
公園へ続く道を歩いていると、ハシボソガラスさんとハシブトガラスさんの激しいコール合戦が始まりました。
羽を大きく広げ、今にも体当たりをしそうな勢いで飛び交っています。
その中に、もしかしたらリボンちゃんもいたのではないか。
私は少し気がかりになりました。
そんな騒ぎの中で、リボンママが私たちの近くへ来てくれました。
欄干のそばを歩いていた私の方へ近寄り、あの優しく深い眼差しで、じっと私を見つめてくれました。
いつもそうでした。
リボンママ。
ピンクちゃん。
そして、私が「緑ママ」と呼んでいた頃の、あの子です。
私の記憶の中には、緑ママとして過ごしていた頃の姿が、たくさん残っています。
特によく覚えているのは、真冬の夕方です。
食べ物の少ない季節になると、裏庭にはハシブトガラスさんたちも大勢やって来ました。
緑ママと緑パパ、そして緑ちゃんに食べてもらおうと、そっとズプリームを出します。
けれど食べ始めようとした途端、ハシブトガラスさんたちが次々に降りてきました。
器はあっという間に空になります。
私はまた新しく出します。
すると、まだ食べていない子たちが、また降りてきます。
多い日は三回、四回と繰り返しました。
私が裏庭に立っている間、警戒したハシブトガラスさんたちはなかなか降りてきません。
けれど緑ママだけは、
「あら、私は平気よ。」
と言うように、カツカツと庭を歩いていました。
私のことを、心から信頼してくれていたのだと思います。
緑ちゃんは、ときどき不思議そうな顔をしていました。
「ママ、パパ。どうして待っているの?」
「よつばさんがお食事を出してくださったのに、早く行かないと全部なくなっちゃうよ。」
そんなふうに言っているように見えました。
けれど緑ママと緑パパは、決して争いの中へ飛び込みません。
門の上で、静かに待っていました。
それが、この一家の生き方だったのでしょう。
争わず、慌てず、順番を待つ。
私は何度も、
「緑ママ、今すぐ出すからね。」
と声をかけました。
緑ママは、私の目をじっと見て、
「はい。」
と答えてくれているようでした。
そして、ほかの子たちがお腹を満たしたあと、ようやく緑ママと緑パパ、緑ちゃんがゆっくり食事を始めました。
「さあ、今度こそゆっくり食べてね。」
寒い夕方に、何度その言葉をかけたことでしょう。
昨年の夏には、ハシブトガラスさんの一家にも幼鳥が生まれました。
みどりちゃんより一か月ほど遅れて生まれたように見えた子で、私は「ハイジちゃん」と名前をつけました。
ハイジちゃんは、みどりちゃんと電線に並んでいることも多く、幼鳥同士どこか通じ合うものがあるように見えました。
一昨年には、同じように生まれた幼鳥を「クララちゃん」と呼んでいました。
ハシボソガラスさんとハシブトガラスさん、それぞれの親子が並んで電線にとまり、夕暮れの空を眺めている姿は、今でも忘れられません。
そして、その年の冬になってから、また別の幼鳥が現れました。
体はもう立派に大きくなっているのに、大きく口を開け、羽を震わせながら親鳥に給餌をねだっていました。
私はその子を「メアリーちゃん」と名付けました。
冬になれば、ほかのカラスさんたちはみんな自分で食事をしています。
けれどメアリーちゃんだけは、お父さんやお母さんのそばで、大きな声で「まだ食べさせて」と訴えていました。
親鳥は、その子を決して見放しませんでした。
そっと寄り添い、お食事を与え続けていました。
私はその姿を見ながら、
「カラスさんの世界にも、それぞれの成長の歩みがあるのだな。」
と、しみじみ感じました。
忘れられない出来事が、もう一つあります。
ある夕方、私がお食事を持って出るのが少し遅くなってしまいました。
外から緑ちゃんの鳴き声が聞こえました。
急いで出てみると、門の上で緑ちゃんが鳴いています。

そのすぐそばで緑ママが、ぴったり寄り添い、優しく羽づくろいをしていました。
「もう少ししたら、よつばさんが持ってきてくださるからね。」
「もう少しだけ待ちましょうね。」
そう語りかけているようでした。
私は涙が出ました。
「ごめんなさい。気づくのが遅くなって。」
急いでズプリームを持って行くと、緑ちゃんはうれしそうに食べ始めました。
緑ママは、すぐに給餌してあげているようでした。

本当に優しいママでした。
自分の持っている愛情を、惜しみなく子どもへ注いでいました。
5月30日。
激しいコール合戦の中から、ふわりと私の近くへ来てくれたピンクちゃん。
そして、あの深い眼差しで私を見てくれました。
私はその時、何も知りませんでした。
その後、ひなママの声をよく聞くようになりました。
私は、
「リボンちゃんは、ひなママからいろいろ教えてもらっているのかな。」
「リボンママとリボンパパは、その間少しゆっくりしているのかな。」
そんなふうに明るく考えていました。
けれど今思えば、ひなママは静かにリボンちゃんを支えてくれていたのでしょう。
何があったのか、私は知りません。
だから、決めつけることはできません。
ただ、今もひなママがリボンちゃんを見守り、ひなおじさまも一緒に支えている。
その姿を、私は毎日見ています。
カラスさんたちの世界も、毎年少しずつ変わります。
昨年まで毎日のように来ていた子が、いつの間にか来なくなることがあります。
今年は、毎年聞こえていた「ハッ、ハッ」と鳴くハシブトガラスのお父さんの声も聞こえません。
少し寂しく感じています。
一方で、今年はリボンちゃんが元気に育っています。
季節が巡るたびに、新しい命が育ち、新しい物語が始まります。
その変化の中でも変わらないものがあります。
それは、親が子を守る姿です。
争わず、静かに待つ一家。
大きくなっても給餌を続ける親。
雨が降り始めると、遠くから幼鳥を呼ぶ母親。
そして今もリボンちゃんを見守る、ひなママ。
私は、その姿から人間の言葉では言い尽くせない深い愛情を教えてもらっています。
ピンクちゃん。
ミラクルママ。
緑ママ。
そして、リボンママ。
呼び名は変わっても、私が出会ったのは、いつも優しく穏やかな一羽のカラスさんでした。
若い母親として子育てを重ね、惜しみない愛情を子どもへ注ぎ、争いを好まず、静かな家庭を築いていました。
門の上で待っていてくれた姿。
私の目をまっすぐ見つめてくれた姿。
緑ちゃんに寄り添っていた姿。
そして5月30日、騒ぎの中から私の近くへ来てくれた姿。
私は忘れません。
今、リボンちゃんは、ひなママやひなおじさまに見守られながら、毎日少しずつ成長しています。
ピンクちゃんが注いだ愛情は、きっとリボンちゃんの中に受け継がれているのだと思います。
どうか、どこかで元気でいてください。

木陰から、そっとこちらを見ていたピンクちゃん。私の大好きな一枚です。
そして、いつかまた、あの優しい眼差しに会えますように。
すべてに感謝します。
I’m truly grateful.