今日は、ギャーさん一家のことを書きます。
2018年の春が過ぎ、初夏に入った頃のことでした。
ひなちゃんと、ひなちゃんのママ、そしてギャーさん。
三羽の家族が、よく家に来るようになりました。
朝になるとやってきて、
日中はあちこちから、ひなちゃんの「ウギャーウギャー」という声が聞こえてきます。
ある穏やかな午後のことでした。
私は2階の踊り場の窓を開けて、風を入れていました。
すると、そのすぐ近くから、ひなちゃんの声が聞こえてきました。
「ウギャー、ウギャー」
そして、ママの声も聞こえます。
少し甘ったるいような、やさしい声でした。
ひなちゃんは必死です。
ママがパパに「パパ来てー」と呼んでいるので、
ひなちゃんも「ぼくもパパを呼ぶんだ」というように、精いっぱいの声で鳴いているようでした。
実はその日、ママは午前中ずっと、ひなちゃんのお世話をしていたのです。
私はそれを見ていて、「ママ、よくやるなあ」と思っていました。
それなのに、パパはなかなか来てくれません。
そろそろ来て、バトンタッチしてほしい。
そんな思いで、ママは呼んでいるのだと思いました。
ママが呼ぶと、たいていパパはすぐに来ます。
きっとこのときは、その呼び始めだったのだと思います。
ひなちゃんは、本当にママ思いです。
ママのそばにぴたっとくっついて、
一生懸命ママの真似をして、
「パパ、早く来てよー。パパ、早く」
そんなふうに鳴いているようでした。
すると、ほどなくして、ギャーさんがやってきました。
すっと現れて、
片方の翼が、まるで頭に触れるように少し下がっていて、
「ごめんね」と言っているような姿でした。
そのときの並びは、右からママ、ひなちゃん。
そしてギャーさんは、そのひなちゃんの隣に来ました。
ギャーさんが来たとたん、
ママはぴたっと鳴くのをやめました。
ところが、ひなちゃんはまだ鳴き続けます。
しかも今度は、パパに向かって、さらに激しく。
「パパ、どうして来てくれなかったの?
ママ、すごく困ってたんだよ。
ずっと探してたんだよ」
そんなふうに聞こえました。
するとギャーさんは、ひなちゃんの方を見て、
おっとっとっと、という感じで少し体を引き、
本当に「ごめんね」と言っているような雰囲気でした。
まるで頭を下げたような、そんな空気がありました。
そしてギャーさんは、
「じゃあ行くか」というように、左の方へ歩き出しました。
そのあとを、ひなちゃんとママが続きます。
ギャーさん一家の行進です。
そのまま三羽は、私の視界からすっと外れて、
屋根の左の方へ消えていきました。
それを見て、私はおかしくてたまりませんでした。
きっとギャーさんは、
青空のもとで一人の時間を満喫していたのでしょう。
おいしいものも、一人で食べていたのかもしれません。
ママだって、そうしたいはずです。
自分でごはんを取りに行きたいし、好みだってあります。
でも、ひなちゃんがぴたっとくっついているので、
なかなか動けません。
だから、あんなに甘い声で呼んだのだと思います。
私は、あんな声を初めて聞きました。
本当に、やわらかくて甘い声でした。
この一家は、なんともほのぼのしています。
ちょっと身勝手で、でもユーモアのあるパパ。
ママが大好きで、ママの立場になってパパを責めるひなちゃん。
そして、そんなパパのことが大好きで、
どんなにおっちょこちょいでも、
子育てにあまり協力してくれなくても、
それでも受け入れているママ。
本当に、素敵な家族です。
ひなちゃんのママは、とてもかわいい姿をしています。
ぱっと見たところ、幼鳥のようにも見えるほどです。
首が長く、すっとしていて、
初めて見たときの印象のまま、ずっとかわいらしいのです。
そして何より、声がとても美しいのです。
張りがあって、
ほかのハシブトガラスたちとコールを交わすときには、
まるで女王のような威厳のある声で鳴きます。
それに対して、ギャーさんの声は、しゃがれています。
ハシボソガラス特有の「ギャーギャー」という声ですが、
その中でもすぐにギャーさんだとわかる音色です。
まるで人が何か話しているように聞こえるほどです。
普段は声量も大きくありませんが、
突然雨が降ったりすると、必ずその声が響きます。
「みんな、雨が降ってきたよ」
そんなふうに知らせているようです。
そして、そのあとに続くのが、
ママの美しい声のコールです。
みんなを導くような、やさしい響きです。
私はいつも、
突然の雨の中でギャーさんの声を聞くたびに思います。
「ギャーさん、お疲れさま。
なんだかんだ言いながら、ちゃんと一家の長の仕事をしているのね。
大変なお役目を、いつも担っているのね」
